2013年 08月 09日
まだまだ続く暗黒のアウシュビッツ強制収容所シリーズ。 屋外に出ても、見学すべきダークな場所はたっぷり残っている。目をそむけずに見ていこう。 たとえばこれ。前回、「銃殺控え室」をご紹介したけど、あの部屋で服を脱いだ収容者たちは次に この壁の前に立たされ、銃殺された。手向けの花が飾られてるけど、この花がここで銃殺された 人々の慰めになるとは思えない。むしろ見学者の方が「ここで昔あったこと」の重さに耐えられず、 その重さから少しでも逃れたいがために置いた花なんじゃないかと思える。 これは絞首用の柱。この横にわたされた長いハリに収容者がズラリと吊るされ、殺された。 上の銃殺もそうだけど、こういう収容者の目につきやすいところで仲間を殺してみせるっていうのは 一種の見せしめなんだろう。しかし、自分たちもいずれ死ぬ、と運命づけられた収容者たちに対して 「少し早く死んだ」仲間を見せることで、見せしめ効果があったのかどうか・・・。 さぁもっと先へ進む。次はいよいよガス室の見学だ。後戻りはできないのだ。 気分が悪くなろうがどうしようが、見学者たちは順々に、ガス室の中に連れて行かれるのである。 中はこんな感じ。施設の性格上、見学者もこの中に入ると「じっくり見学しよう」という気にはなりづらくて、 モノも言わず、わりと足早に内部を眺め、入る前より一段と暗い気分になって出て行く。 イ課長のイメージだと、ガス室の天井には“擬装用”のシャワーがあったはずだけど、ここにはない。 アウシュビッツのこの場所は「最初のガス室」として作られたもののようで、後に管理用の建物として改造され、 戦後ガス室として復元された、とWikipediaには書いてあった。シャワーノズルみたいな“偽装”が 一般化するのはもうちょっと後になってからなのかもしれない。 映画「シンドラーのリスト」では、女性たちがガス室送りになったと思って押し込められた部屋が、実は 本当のシャワー室だったっていうシーンがあったけど、実際にそういうことはあったらしい。要するに ガス室とシャワー室って、髪を切ったり全裸にヒン剥いたりっていう事前処理も含め、部屋の構造も規模も ほとんど同じだったんだろう。最後に出てくるものが毒ガスか、水かの違いだけ。 そして、その奥には以前に模型で見たクレマトリウム、つまり死体焼却施設がある。 ガス室で殺し、死体を運び、ここで焼く。流れ作業。作業にあたるのもまた収容者たちで、読んだ話だと そういう作業にあたっていた収容者たちは、時に死体の山の中に自分の親族、ひどい時には自分の妻を 発見する、なんてケースもあったらしい。 こんな風にしてアウシュビッツを見ている時、イ課長は何となくヘンな思いが湧いてきた。 ここには、当時あった状態のまま残ってるものがたくさんある。かつてたくさんの収容者たちが実際に その手で触れたものも多いだろう。 そういうものに、自分の手をくっつけたくなった。要するに触りたくなったんだよ。 何回か前の記事で、アウシュビッツに関しては「そこに行って、そこに触れ、そこの空気を吸い、 そこの土を踏むことが重要」みたいなことを書いたけど、文字通りの意味で、触りたくなった。 もちろん展示物に触るのは見学者として、ほめられた行為ではない、というか、いけない。 でも、とにかく当時のものを、何でもいいから、自分の手で、ジカに触らなければならないと思った。 だから、途中にあった鉄格子を手でちょっと触った。ついでにその手を写真に撮った(笑)。 この鉄格子はたぶん、かつて大勢のユダヤ人や政治犯たちも手で触れたところだろう。 そこを、自分でも触った。 「自分は確かにここに来た」ということを確認したい・・というのとは違う。強いていえば 「私はここに来ました」ということを、かつてここを触った人たちに伝えたかった、というのが近いか・・・。 なぜあんなにも「触りたい、触らなければ」と思ったのか、正確には自分でも未だによくわからない。 しかし、何度もいうけど展示物に触るのはよくないことだ。ごめんなさい。この場を借りて謝ります。 でもあの時はどうしても、ちょっとでいいから、触るべきだと思ったんだよ。 見学してるうちに、イ課長の精神状態もダークになってきたようだ。 いやーーーまったくもって実に重いツアーだ。 しかし、この見学ツアーはまだまだ続くのである。そしてこのシリーズも。 次回はアウシュビッツから移動して、ビルケナウ強制収容所をご紹介しようと思う。
by tohoiwanya
| 2013-08-09 00:02
| 2012.06 東欧・北欧旅行
|
Comments(6)
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みゅげ
at 2013-08-09 09:40
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息子に、「アウシュビッツの写真、見せて」と言ったら、「本当に見たいの?」と訊かれ、やめてしまったのですが、はからずもこちらで拝見させて頂きました。
ただ、じっくり見ないようにして読みましたが・・・。 ここは、私には無理だなぁ・・・。
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tohoiwanya at 2013-08-09 12:44
>ここは、私には無理だなぁ・・
みゅげさん: いやいや、息子さんが大丈夫だったんだから、その息子を産んだ母親なら もっと大丈夫ですって(意味がわからない)。 まぁ私にとってもこの時みたいなダーク・ツーリズムは特殊なケース。 アウシュビッツにはぜひ行きたかったけど、いつもこんな旅行はしたくない(笑)。 ベトナム行ったときも、ホーチミンで戦争証跡博物館に行こうかなぁと思って 「オマエは2年連続でそういうダークな旅行をしたいか?」と自問したら すぐに「今回は楽しくいこう」という結論に達して、行くのヤメました。
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はな
at 2013-08-09 20:31
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イ課長さんの写真拝見してると記憶がよみがえります。
って、まだ2か月しか経ってませんが^^; 私は予習せず行ってしまったので、ビルケナウに移動する前に 慌てて売店で日本語のパンフレットを買い、帰国してから、 シンドラーのリストとアンネフランクの関連本を読むという 完全に復習になってしまいましたけど、それでもやっぱりここに 居るときは、ずっと気が張りつめていた気がします。
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tohoiwanya at 2013-08-10 00:30
>まだ2か月しか経ってませんが^^;
はなさん: 私は14ヶ月くらいたちましたけど(笑)、こうしてあの時のことを書いていると 去年の6月のアウシュビッツ訪問時の記憶がどんどん思い出されてくる。 まぁあれはどう考えても「外国での素敵な思い出」というものとは正反対にところにある 経験でしたけど、その分深くて、重くて、忘れられない経験でしたよね。 私はポーランド行く前に「シンドラーのリスト」「戦場のピアニスト」を観て、さらに アンジェイ・ワイダの白黒名作「灰とダイヤモンド」とか「地下水道」まで観て 映画でかなり予習していった。 「ありがとう」って言うときの発音(ジンクェ)とか、だいぶ参考になりました(笑)。
はじめまして、
時々、こちらにお邪魔して、笑わせて頂いていましたが、 これは、すごいです。 多分、私は行く事ができないと思います。 歴史の中では、匹敵するぐらい強烈なもの(ポルポトとか)があると思うのですが、アウシュビッツ。。 本当に強烈ですね。冬とかどんな感じだったんでしょうか。 いまや、ハリウッドを牛耳っているユダヤ人の家族とか祖先が、ここにいたかもしれないと思うと、ちょっとピンときません。
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tohoiwanya at 2013-08-11 23:00
>アウシュビッツ。。 本当に強烈ですね
pikiさん: 初めまして・・とはいえ、Bきゅうさんのところでお名前はよく存じておりました。 コメントありがとうございます。 アウシュビッツ、かなりのモノでしょう?私もそれなりの覚悟をきめて行ったけど、 いざソコに行ったら声もなく打ちのめされるしかなかった。 わざわざ飛行機代かけて(笑)、暗い記憶が染み込んだアウシュビッツに行って、 打ちのめされて帰ってくるっていうのは、あまり人様には勧められない旅行ですけど、 個人的にはぜひ行きたかったところなので、本当に貴重な経験でしたよ。でも これと同じようなダークな旅を、もっとあちこちでやりたいか?と言われると、ちょっと・・・(笑)。 |
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