2013年 09月 07日

映画ヲタクの旅:アーモン・ゲートの家

雨のクラクフ、ダークな旅は続く。

シンドラーの工場を出たイ課長は、再び市電に乗り、ヴェリチカ通りを南東に向かった。
この先にプワショフ強制収容所跡地があり、残虐非道なサディスト所長として恐れられた
アーモン・ゲートの旧宅もその近くに残っているはずなのだ。

「シンドラーのリスト」をご覧になった方なら、レイフ・ファインズが演じたオニの収容所長
アーモン・ゲートの存在は忘れない。彼もシンドラーと同様に実在の人物なんだけど、
その評判はこれ以上悪くなりようがないくらい、悪い。

あの映画の中で最もいやなシーンの一つが、アーモン・ゲートが自宅のベランダから
タバコを吸いながら、ライフルで収容所にいる収容者を気まぐれに狙撃する場面だ。
映画をご覧になっていない人のために、動画を貼っておく。
 


これ、実際にあった話のようで、さらにタチの悪いことに、アーモン・ゲートは自分が狙撃した
犠牲者の死体に向かって飼い犬をけしかけ、食わせてたっていうんだから、こうなるともはや
冷酷とか残虐ってレベルじゃない。立派な異常者。

しかし感心させられるのは、この稀代の悪役を演じるにあたってのレイフ・ファインズの役作りだ。
この写真を見てみ?アーモン・ゲートを演じるために、彼がタイコ腹の肥満体型にわざわざ太ったのは
間違いないし、本人のこういう古い写真資料を研究した上であの場面を演じたのも明らかだ。
(下に載せた写真はネットからの拾い物)
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映画にもあったように、アーモン・ゲートの家はプワショフ強制収容所のワキに存在した。
その家がまだ現存しているとなれば、これはぜひ見ておきたい。
場所がどこなのか、地図で特定するまでは一苦労だったんだけど、こういうことには仕事以上の
情熱を傾けることで有名なイ課長だから(笑)、ちゃんと発見したのである。もちろん、地図には
アーモン・ゲート旧宅なんて出てるわけないから、鉛筆で「この辺のはず」という印をつけておいた。

最寄と思われる停車場で市電を降り、あの辺と思われる地点に向かって緩い坂道を登る。
この先のはずだ。地図によると、この坂を登りきったところの道のやや左手のあたりに・・・
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うおッ?!こりゃたまげた。
ここにもまた別のユダヤ人団体が見学に来てるよ。アーモン・ゲートの家なんていうダークスポットを、
団体で、ガイドつきで見に来ているとは驚いた。シンドラーの工場でもユダヤ人団体と遭遇したし、
クラクフでイ課長が行きたいと思った場所は、ユダヤ人が見たいと思う場所と重なるってことだ。
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そして、これが問題のアーモン・ゲートの家なのである。
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ぼろい。古い。完全な廃屋。
看板の文字が読めないけど、売りに出されているっぽいね。しかし、売れるのかなぁ?
周囲は普通の人たちが住む普通の閑静な住宅街だ。そこに一軒だけ幽霊屋敷みたいなこの家が残っている。
ご近所の人にとっちゃあまり嬉しくない近隣物件かもしれないけど、しかしこれはこれで残しておくべきという
気もする。こうして見学者もいるくらいだし。いっそ市とか国とかが買い取って保存したらどうなんだろ?
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これは東側の道路に面したガワで、この反対側、西側が収容所に面してて、例のバルコニーも
そっち側にあるんだけど、それを見るのは極めて困難だ。隣の家の庭に入り込まないといけない。
こんな感じで、隣家の庭の奥にアーモン・ゲート旧宅がのぞいている。
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しょうがないから、出来る限り中に入って、望遠で撮ってみた。
うーむ・・・このバルコニーからアーモン・ゲートは退屈まぎれに収容者たちを狙撃したわけだ・・うーむ。
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映画だとアーモン・ゲートの家は高いところにあり、収容所を上から一望するような位置関係になっていた。
実際、バルコニーから収容者を狙撃しようとすればそうなっているのが普通だ。

しかし、プワショフ強制収容所はアウシュビッツやビルケナウと違って、まったく保存されていない。
ソコにあったものはたぶん壊して埋めちゃったはずで、さらに土を盛ったりしたせいか地形も変わっている。
だから、現在は旧アーモン・ゲート邸のバルコニーから正面を眺めると、小高い丘があるばかりで、
眼下に広がる収容所を一望するなんていう構造ではなくなっているのである。

さて、では当初の計画通り、その跡地を歩くとするか。
雨のクラクフ・ダークな旅の計画の最後は「旧プワショフ強制収容所跡地の徒歩横断」だったのである。
そこに収容所が確かにあった。しかしいま残った遺構はない。ロクに道もない。ただの草ボウボウの丘陵地帯。
雨の中、一人でそんなところを歩いて横断しようっていうんだからモノズキすぎるぞ、イ課長。

そんなプワショフ強制収容所跡地。次回ご案内いたしましょう。何もないけどね(笑)。
 

  
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by tohoiwanya | 2013-09-07 00:01 | 2012.06 東欧・北欧旅行 | Comments(8)
Commented by hanatomo31 at 2013-09-07 00:54
スゴイスゴイ!! こんなマニアックな旅、なかなか出来ませんよ。
私もよく覚えていますよ、アーモンゲイト。
家がちゃんと残っているとか、そんなこと考えもしませんでしたが
中途半端なみすぼらしい古さで残っているんですね。

それにしても、ファインズ家の俳優の輩出の多さと言ったら。
みんな成功しているからすごいですよね。
Commented by tohoiwanya at 2013-09-07 22:07
>こんなマニアックな旅、なかなか出来ませんよ

ハナトモさん:
「健全な旅行者なら、こんなモンわざわざ見に来んよなぁ・・」と自分でも思った(笑)。
しかし、そんなマニアックな場所をユダヤ人団体が見学してたのはホント、驚きました。
彼らがアーモン・ゲートの家の次に、どこを見学しに行ったのか、ちょっと興味がある。

レイフ・ファインズ、初めて見たのは「嵐が丘」のヒースクリフ役で、
「ヒースクリフにはどうかなぁ?」って感じだったんだけど、その後成功しましたねぇ。
ちょっとアブナそうな兄に比べ、弟は甘いマスクで、いかにもモテそう。
 
Commented by Bきゅう at 2013-09-08 06:56 x
シンドラーのリストって、本も読んだし、たぶん映画でも見た。
でも、ぜんぜん覚えてないっすよ。俳優の名前は全滅ですう(←たぶん覚えても何も貰えないから頭から抜けていくのだと思う)。イ課長さんすごいですねえ。
Commented by tohoiwanya at 2013-09-08 23:53
>ぜんぜん覚えてないっすよ。俳優の名前は全滅ですう

Bきゅうさん:
まぁ普通の人はそうですよ。私はヲタクだから・・・(笑)。
とはいえ、私の映画ヲタクの素養?は主に中学・高校くらいの時に形成されたから、
最近の映画とか、俳優の名前になるとサッパリですね。
それでもレイフ・ファインズくらいだったら何とかなるけど、お若い俳優になると
もうてんでダメ。
Commented by kokouozumi at 2013-09-17 06:14
イ課長さん、はじめまして。似ているブログで一度覗かせていただいてから、密かに面白く拝見していました。ドイツから発信しています。
この記事も大変興味深かったのですが、数日後になんとイ課長さんが並べたような、アーモン・ゲートとレイフ・ファインズの写真をドイツの一流新聞に発見してびっくりしました。記事の内容は、ナイジェリアに生まれ、ドイツ、ゲートの娘の家へ養子として迎えられた女性の話です。彼女はアーモン・ゲートの孫になったことを知らずに、イスラエルの大学でホロコーストの研究をしたのです。偶然アーモン・ゲートに関する本を発見し、驚愕します。

ドイツではこのようにホロコーストやユダヤ人迫害の自らの歴史を、今もかなりの頻度で報道されています。

本当は覆面でコメントしたかったのですが、かぎこめツールがなく、蛇足を承知で一言お伝えしました。あしからず。
Commented by tohoiwanya at 2013-09-17 13:15
>密かに面白く拝見していました。ドイツから発信しています。

kokouozumiさん:
はじめまして。コメントありがとうございます。
最初にお断りしておかないといけないのは、あの実物とレイフ・ファインズの二つの写真は
ネットで検索中に偶然見つけたものなんです(記事にも注釈を入れました)。
あの二人の酷似ぶり(というか、レイフ・ファインズの似せた役作り)を見ると
誰でも比較したくなっちゃうんでしょうな。

アーモン・ゲートの娘さん(もうお婆さん)が何かのインタビュー番組に出たっていう話は
読んだことがあるんです。「アーモン・ゲートの娘として生きるつらさ」みたいな
内容だったはずですが、お孫さんの話は初めて知りました。そりゃぁ驚いたでしょうねぇ。

kokouozumiさんのブログを覗かせていただきましたが、陶芸家としてドイツにいらっしゃるんですね。
興味深いです。また読みにお邪魔させていただきます。
Commented by みゅげ at 2015-02-05 19:13 x
今日、BSで『ヒトラー チルドレン・・・ナチスの罪を背負って』を観ました。
アーモン・ゲートの娘さんが出ました。

顔を出すことじたいが、危険なのでは・・・と思いました。

レイフ・ファインズのファンなので観たい映画なのに、怖くて観ていません。

根性なしなので、アウシュヴィッツもここも行けません・・・。
Commented by tohoiwanya at 2015-02-08 23:38
>アーモン・ゲートの娘さんが出ました

みゅげさん:
その番組は見てませんが、アーモン・ゲートの娘さんが海外TV局制作の番組で
インタビューを受けたって話はどこかで読んで、写真も見た(その番組をBSでやったのかな?)。
もう娘さん自体もすっかりオバ(ア)さんになってましたけどね。
父親が処刑されて、娘さんが「ナチ残党狩り」の標的にはなることは
なかっただろうけど、おそらくつらい人生を歩んだんだと思います・・・。


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