2014年 05月 28日

サイゴン マジェスティック・ホテル

サイゴンのホテルシリーズ第二弾。
本日の記事はちょいと文学青年っぽくなりそうだが、ご容赦いただきたい。

サイゴンのマジェスティック・ホテルにはぜひ行きたかった。
それは二人のノンフィクション作家の本を読んだからだ。この二人がマジェスティック・ホテルからの
眺めについて書いた文章がどちらも非常に印象深いんだよね。

一つは近藤紘一が書いた「サイゴンのいちばん長い日」。
近藤さんはサンケイ新聞のサイゴン特派員で、サイゴン陥落の日も国外に出ず取材を続けた。
彼がその後書いた「サイゴンから来た妻と娘」は何かの賞もとったはずで、ご存知の方もいるはず。

近藤さんはサイゴン駐在中に知り合ったベトナム人女性と再婚するんだけど、最初の奥さんは日本人で、
夫婦二人でフランスに留学することになった。その途中でサイゴンに立ち寄り、マジェスティック・ホテルの
テラスレストランで食事をするんだけど、その時のことを回想する彼の文章は美しい。

さえぎるものもない窓の向こうの広がりは、今と同じように光とのどかな色彩にあふれている。
(中略)あの夏の朝、私は幸福だった。かたわらには前の妻がおり、そして私たちの目の前には、
二年間の外国での自由な時間があった。


だがフランスに着いてしばらくすると近藤さんの奥さんは病気になり、やがて亡くなる。

妻の死後一年余りして、風の吹き回しで再びこのサイゴンに戻った時、妻と共に川向こうの風景を眺めたあの
夏の朝は、やはり、自分とこの土地との将来の結びつきを予告する宿命的なひとときであったのか、と思った。


近藤さんは再婚したベトナム人の奥さん(と、その連れ子の娘さん)とやがて日本で暮らすんだけど
不幸にも若くしてガンで亡くなった。彼の死を悼む人は未だに多い。

彼の死後だいぶ経ってサイゴンを訪れた沢木耕太郎は、今は亡き近藤さんのことを思いながら
同じようにマジェスティック・ホテルに泊まる。なぜなら・・・

私は、近藤さんがそのようにまで言う、マジェスティックからの風景をどうしても見てみたかった。
そこで、ホーチミンに行くと決めたとき、まずマジェスティックに予約を入れたのだ。



私はそのミス・サイゴンを呑みながらサイゴン河に映るネオンのゆらめきに見入っていた。(中略)
暗い夜の中に、わずかな華やぎを見せているこのマジェスティックからの風景には、見ている者の心に
静かに深く沁み入ってくるものがあった。


沢木耕太郎にならってイ課長の気持を表現するとこうなる。

近藤紘一と沢木耕太郎という二人の作家がそのようにまで言う、マジェスティックからの風景を
イ課長はどうしても見てみたかった。そこで、サイゴンに行くと決めたとき、マジェスティックホテルの
テラスバーに必ず行こうと思ったのだ。

マジェスティック・ホテルは前回書いたコンチネンタル・ホテルから歩いて行ける。
中に入ると・・・うおお、さすがは由緒ある高級ホテル、内装はすごく豪華だ。
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しかしイ課長の関心はホテルロビーの豪華さにあるのではない。テラスバーだ。
エレベーターに乗って5階だか6階だかの「ブリーズ・スカイ・バー」を目指す。



           ・・・・・おおッ・・
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このテラスからの眺望は確かに素晴らしかった。
「何かものすごいモノが眺められる」というわけでは全然ないんだけど、視界の広がりがすごい。

このホテル、ちょうどサイゴン川が大きく蛇行している、その“アウト側”の川べりに建っている。
だから「こっちにグーッと近づいてきた川が、また向こうにグーッと遠ざかっていく」という眺望になる。
あの感じはとても普通の写真じゃ伝わらないから、ムリヤリ二つの写真をパノラマ風にくっつけてみた。
これで多少は感じをつかんでいただけるだろうか。
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イ課長は沢木耕太郎のようにミス・サイゴンではなく、ビールを注文した。
さっきの雨でまだイスが少し濡れてたけど構うこっちゃない。一番川寄りの席に座ってビールを飲んだ。

川の向こうはまだほとんど開発されてなくて、立て看板がいくつかある以外は南国の緑が広がる。
その前に川があり、船が通る。ただそれだけの風景なんだけど、その広々した感じには誰もが
「うわぁ」と声を上げたくなるはずだ。近藤さんみたいに生まれて初めての外国渡航でこの眺望を見たら
宿命的と思いたくもなるかもなぁ。

「あの夏の朝、私は幸福だった」と彼は書いた。
2013年6月の初夏の夕暮れ、イ課長もマジェスティック・ホテルのテラスで・・まぁ「幸福」とまでは
言えないにせよ、しみじみと一人旅の旅情をかみしめたよ。
昨日の夜遅くサイゴンに到着したばかりで、この日は実質的にはベトナムの旅の初日みたいなもの。
サイゴン川を往来する船を見ながら、自分はいまベトナムの空気を吸ってるんだなぁ・・と思った。

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ゆーーっくりと大型船がサイゴン川を航行していく。
夕立後の空もゆーーーっくり薄暗くなって、サイゴンは今まさに夕方から夜に変わろうとしている。
そんなスローな変化をいつまでもこのテラスから眺めていたかった。
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近藤紘一の著書「サイゴンのいちばん長い日」と「サイゴンから来た妻と娘」、そして
沢木耕太郎の「一号線を北上せよ」の計3冊はイ課長のベトナムの旅に少なからぬ影響を与えた。
しかしこのマジェスティック・ホテルでのひとときは「少なからぬ影響」どころこじゃないな。
モロ、100%影響そのもの(笑)。

ちなみに、マジェスティック・ホテルのテラスバーで飲んだビール。1杯が16.5万ドン=830円くらい。
沢木耕太郎も同じこと書いてるけど、このマジェスティック・ホテルで飲んだビールはイ課長にとって
サイゴンに来て以来最も高額な支払いだったのである。
 



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by tohoiwanya | 2014-05-28 00:35 | 2013.06 東南アジア旅行 | Comments(4)
Commented by Bきゅう at 2014-05-28 06:55 x
おおおお、イ課長さんがホテルで一人ビールだぁ。そっちのほうが驚き。いいなあ(←すんません、文学わかってないですう)。良さげなホテルで830円なんて。この近くの物価の安い国は治安も悪いので行きにくいですう。
Commented by tohoiwanya at 2014-05-28 16:33
>イ課長さんがホテルで一人ビールだぁ

Bきゅうさん:
私の「海外におけるビール消費場所ランキング」を作るとしたら、結果はおそらく
  ①ホテルの自室
  ②メシ屋
  ③カフェとか
という順序になるはずで、「(自分が泊まってもいない)ホテルで」っていうのは
確かに珍しいケースですな。

830円、日本円にすると「そんなもんだろ」って感じですけど、フォー1杯が
3万ドンくらいですからね。どうしても「フォー5杯分!」とか思っちゃう。
Commented by piki at 2014-05-29 08:33 x
こんにちは、
紹介されている本も、すばらしそうだけど、
イ課長も、のブログ記事もすばらしい。いつか、このブログを本にすればいいのにと思います
ベトナム戦争、WIKIさんに聞いてみました。 そうだったのか、と思いました。 850円のビール、日本でいえば、ホテルの高級バーでビールを3000円で飲む感覚なんでしょうか。
Commented by tohoiwanya at 2014-05-29 12:47
>日本でいえば、ホテルの高級バーでビールを3000円で飲む感覚なんでしょうか

ぴきさん:
たぶんそんな感じなんでしょうねぇ。
従業員はベトナム人だけど(あたり前)、客はほとんど外国人だったはず。

むかし、シンガポール出張で「ラッフルズホテルに行って、シンガポールスリングを飲む」っていう
今回とやや似たことをやったことあるけど、あれも高かった。カクテル一杯が2000円くらいは
したんじゃなかったかな(←昔の記事に書いたけど確認するのが面倒らしい)


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