2014年 07月 20日

ゲントの祭壇画 -神秘の子羊-

ゲントで行きたいと思ってた屋内観光物件。それはある教会が所蔵する祭壇画なのである。

以前にルーブル美術館の記事にも書いたけど、イ課長の美術的教養の大部分は
NHKの「ルーブル美術館」シリーズと朝日新聞の「世界名画の旅」シリーズで形成されている。

その「世界名画の旅」でゲントの祭壇画、別名「神秘の子羊」という絵を初めて見た。
宗教画だから内容はよくわかんないんだけど、とにかく保存状態が良いせいか異常に色が鮮やかで、
描かれているもののディテールが異常に細密で、要するに「何だかわからんが異常にすげぇ」っていう、
そういう印象の絵だったんだよ。ファン・アイク兄弟が15世紀に描いたとされる。

フランドル絵画の傑作中の傑作と言ってもいいこの祭壇画はゲントの聖バーフ教会に所蔵されている。
せっかくゲントに来たんだから行ってみようじゃないの。下の写真右側が聖バーフ教会。入場は無料だけど
教会には特に見るべきものもなくて、祭壇画は別室に展示されてる。こちらはさすがに無料ではない(笑)。
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ファン・アイク兄弟の話をするために、先に別の絵のことに触れよう。
この兄弟、とにかく絵が上手だったんだけど、特に弟のヤン・ファン・アイクは「神の手を持つ男」と
言われたほどの技術の持ち主で、彼が描いた有名な絵に「アルノルフィニ夫妻の肖像」という絵がある。
「ああ、この絵は見たことがある」という方も多いだろう。
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この絵も絵画史上の傑作中の傑作と言われてて、特にヤンの異常なほどの細密描写技術の例として
よく引き合いに出される。この夫婦の真ん中にギザギザのついた小さな丸い鏡があるじゃない?
この小さな鏡を拡大するとだ・・・
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こんな具合に実際に凸面鏡に映った部屋、モデル、絵を描いてる自分自身まで描き込んでるから驚く。
鏡自体に施された装飾の細密な描写も「そこまで描くか?」ってくらい細密。昔から思ってるんだけど、
こういう人間業とは思えないくらい精密にリアルに描かれた絵って、逆に幻想絵画に近づくよね。

こういう異常な技量を持った画家が、その異常な技量を余すところなくつぎ込んで描いた祭壇画。
さぁそれではご一緒に鑑賞・・と言いたいところだが、中は撮影禁止なので、Wikipediaにあった画像を
拝借させていただこう。
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祭壇画は大きなガラスケースの中に納められてて、表も裏も鑑賞できるようになってる。
(裏側には、ちょうど祭壇画のフタにあたる部分の絵があって、これがまたスゴいんだ)
細部をご覧いただくにはこのサイトがいい。どんどん拡大して見てごらん?ちょっとびっくりするよ。
ハッキリ言ってこの祭壇画、拡大して見ないとそのスゴさはわからないのだ。

上段中央の「父なる神」が胸にかけてる宝石の飾りなんかは得意の光沢描写テクニックが
ふんだんに使われてる。ヤン・ファン・アイクくらい異常に絵が上手になっちゃうと、こういう
「光沢を放つ宝石」みたいな得意中の得意といえるモチーフは居眠りしてても描けたんじゃないかと
思えちゃうよね。細部を精密に絵画として再現することにかけちゃまさに天才だった。
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下段左の騎士たちの甲冑の光沢表現もまたお手のものって感じだけど、油絵の歴史においては
こういうテクニックこそまさに革新的技法だったらしい。
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上段左寄りの聖歌隊がまたすごい。服の刺繍や宝石の細密描写のスゴさはいつものことだけど、さらに歌い手の
歯や舌の位置まで正確に描かれてて、誰がどのパートを唄っているのか推測できそう、とすらいわれてる。
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上にも書いたように、普通の距離から実物を見ただけじゃここまで細部はわからない。
この拡大可能サイトの絵を見て、改めて「うわぁすげぇ絵を見たんだなぁオレは」と思ってるところ(笑)。
細部を観察したい場合、双眼鏡とか持ってって見るっていうのも一つの方法かもね。

バーフ教会の外にこの祭壇画を描いたファン・アイク兄弟の銅像がある。
雪が積もって寒そうだけど、まぁとにかく大した兄弟だったよキミたちは。
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ちなみに、このゲントの祭壇画はいま段階的に修復してるそうで、そのスケジュールは以下の通り。

2012年10月~2014年10月:祭壇画の扉部分、外側のパネル
2014年10月~2016年4月:祭壇画内側、上段部のパネル。中心部「父なる神」を含む。
2016年4月~2017年10月:祭壇画内側、下段部のパネル。中心部「神秘の子羊」を含む。

イ課長が行ったのは2013年2月だったから、主要部分は修復前で実物を見られたわけだ。
内側の上段・下段、「父なる神」や「神秘の子羊」はこの祭壇画のキモだから、これを見たいという方は
今年10月までにゲントに行くか、さもなければ2017年11月まで待った方がいいのかもしれない。


 
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by tohoiwanya | 2014-07-20 00:14 | 2013.02 欧州出張 | Comments(4)
Commented by Bきゅう画廊 at 2014-07-21 19:43 x
にゃるほど。だから、陰がないように見えるのかー(細かく細部まで書いている分、そこまで、コントラストを付けているから、全体としては、陰がないように見える)。描くのに時間かかりますよねー。この兄弟は幸せだったのかなー。
Commented by tohoiwanya at 2014-07-21 21:37
>全体としては、陰がないように見える

Bきゅう画廊さん:
ははーーー。なるほどね。とにかく画集とかでゲントの祭壇画を見ると異常に鮮明に
描かれてて、ほぼ同じ時代に描かれたイタリアルネッサンス絵画なんかとは
全然見た感じが違うんですよね。ほんと、幻想絵画に見える。
ファン・アイク兄弟の生きザマってあまり伝わってないと思いますけど、
とにかくここまで絵が上手で、絵の注文が次々と舞い込んでいたわけだから
後世の評価や彼らの私生活は別として、生前に画家としてはそれなりに
幸せだったんじゃないんですかねぇ?
Commented by カプメイ at 2014-07-23 14:50 x
リンク先、凄いですね~。
なかなか近寄って見られない祭壇画がここまで!
光の描き方が天才的なんですね。
と、感心していたはずなのに、違うことに気が付いちゃいました。
Mr.アルノルフィニはプーチンに似ている!!
ごめんなさい、ごめんなさい。
皆、暑さのせいだ。。。
Commented by tohoiwanya at 2014-07-25 00:21
>なかなか近寄って見られない祭壇画がここまで!

カプメイさん:
細部をじっくり観察するなら、実物見るよりあのサイト見た方がいいくらい(笑)。

しかし実物の絵の保存状態の良さはホントにすごい。
よくまぁあれだけ鮮やかに色が残ってると感心するほどで、修復の必要なんて
ないんじゃなかろうかと思えちゃうくらい。
あの祭壇画は「板に油絵」で描かれてるらしいんですけど、同じような時期の
ルネサンス期のフレスコ画なんか束になってもかなわない色鮮やかさ。
ダビンチも最後の晩餐なんかがこれと同じくらい鮮やかに残ってたとしたら
どういう感じなんだろう?


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