2019年 09月 18日
第九が始まった。 ベルナルト・ハイティンクに抱いていた「スタンドプレイ的要素がない、キチッとした 音楽をやる人」というイメージはまさにその通りだったね。彼が振る第九はあんまり テンポ揺らさず、滔々たる流れに貫かれている(下の写真はもちろん開演前の練習風景)。 第九ではテンポ揺らす指揮者ってけっこう多い。「曲が盛り上がる所で少し早める」のが よくあるパターンで、そうすると確かに高揚感は増す。 一番よくあるのが第4楽章、合唱がフルコーラスで歓喜のテーマを歌うところだろうな。 その直前にオケがスローな弱音からぐぅわっ!と盛り上がるから、それに乗って最高潮に 盛り上げたいと指揮者は思うわけで、ここでテンポを少し早める人がけっこう多い。 しかしハイティンクはそういうことしない。テンポはほとんど変えずキチッと進める。 だから第2楽章あたりは「キモチゆっくりめかな」と思えたのに対し、普通の指揮者が 「ここはガラリ変わってゆ〜ったり聴かせよう」と考えたがる(んじゃないかな?) 第3楽章はむしろキモチ速めに流れていく印象。 しかし第1・第2楽章でイ課長はすでに感動してたよ。 凡百な指揮者が凡百なオケをゆっくり振れば、音楽は間延びして、空疎で、退屈になる。 しかしそこはハイティンク、そして名だたるバイエルン放響。ゆっくりめの演奏が 実に豊かに、隅々まで充実しながら流れていく。「抑制がきいた演奏」ということも できるだろうけど、抑制されていても熱い。素晴らしい。 この夜は指揮者の顔がよく見えたから、第4楽章はつい合唱団員の気持ちで ハイティンクを見てしまう。 第4楽章では指揮者が“一緒に歌う”ことが珍しくない。もちろん声は出さないけど 歌詞に合わせて口をあける。手ではオケを、顔と口では合唱団を指揮するような 感じになる。合唱団員にすれば指揮者が一緒に歌ってくれると盛り上がるんだよね。 しかしハイティンクはそういうこともしない。「盛り上げるぜ」的な“操作”は ホントにしない人なんだね。 そんな姿を見る全ての聴衆の心に「彼の指揮姿を見られるのは今夜が最後かも・・」 という思いがよぎったはずだ。何せ89歳のご高齢。イ課長も同じことを思ったさ。 間違いなく楽団員や合唱団員も同じことを思いながら弾き、歌ってたと思うんだよ。 会場中がその思いを共有していたと思う。 もうねぇ、あの時の会場の雰囲気は表現しようがないよ。誰もが「これが最後か・・」と 切ないような気持ちでいる一方で、オケや合唱団からは「ミュンヘンで聞ける最後の ハイティンクの夜、ゼッタイ名演にするぞ」って熱意が伝わってくる。素晴らしい。 いつまでも聞いていたかったけど、第九の演奏は終わった。 大歓声、大拍手はいつまでも、いつまでも続く。長い曲を振り終わった89歳のご老体を 何度もアンコールで呼び出すのは悪いな・・とは思うけど、今夜の感動を指揮者に 伝える方法はこれしかない。やがて聴衆は全員立ち上がって拍手し始めた。 「アンコール、1枚だけ撮らせてくだしゃい!ごめんなしゃい!」と心で謝りながら サッと撮ったのが上の1枚で、中央、右を向いてる白い頭のご老体がハイティンク。 ハイティンクが引っ込んだあと、楽団員同志が抱擁し合ってたのも印象的だったなぁ。 「今夜の演奏よかったよ!」っていう達成感がオケにもあったんだろう。 いやー・・期待以上の、素晴らしい夜でございました。 再びSバーンに乗ってミュンヘン中央駅に戻る間も、イ課長の心は満たされていた。 ドイツ語に苦しみながらチケットとった甲斐があったよ。この7か月後には引退することになるハイティンクの第九を、なぜかミュンヘンで 聴けたことは本当に千載一遇の機会だった。イ課長生涯の自慢になるよ。 9月で引退すると伝えられる90歳の巨匠・ハイティンク。 あの夜の感謝を込めてこの記事をハイティンクに捧げるとともに、引退後も お元気でいて頂きたいと心から願うイ課長なのである。 ちなみに、この演奏会の動画が下記URLで見られます。たぶんイ課長が行った日の 翌日あたりに録画したんだと思われる。1曲目の「静かな海と楽しい航海」と 第九の4つの楽章全部が収録されてるから長いけどね。 https://www.br-so.com/bernard-haitink-2-p13337/
by tohoiwanya
| 2019-09-18 00:05
| 2019.02 欧州出張
|
Comments(4)
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Bきゅう
at 2019-09-18 20:44
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それはスーツが役に立って、よかったですねえ。それにしても、ハイティングさんのパワーより、出張中でも出かけるイ課長さんのパワー、すごいと思いましたあ。夜8時くらいからでしょう?
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tohoiwanya at 2019-09-19 14:03
>夜8時くらいからでしょう?
Bきゅうさん: ちょうど8時開演でした。ホテル戻ってきたのは遅かった。 私は仕事はキライでも、こういうことにはすごく前向きなんです(笑)。 それにこの演奏会は木曜日で、仕事は「明日で最後」だったのも都合がよかった。 晩メシはあらかじめ駅でサンドイッチと缶ビール買って、冷蔵庫に入れておいたもの食いました。 0
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おいちゃん
at 2019-09-21 21:13
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tohoiwanya at 2019-09-22 00:42
>リンク先、素晴らしい演奏でした!
おいちゃんさん: いやぁ~あれは本当に素晴らしい、感動的な演奏会でした。 欧州に出張すると、せめて仕事が終わった夜くらいは何か楽しいこと したいと思ってオペラや音楽会を探すんですけど、限られた日程の中だと いい演目がなくて、「しょうがねぇ、これでも見るか」ってこともしばしば(笑)。 しかしこの時はミュンヘン滞在が数日ズレていればこの第九を聴けなかったわけで、 ホントに幸運でした。 |
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